黄金の狐,不明,50

<i>- 暁、黄昏、そして夜 -</i>

むかしむかし、はるか遠い大陸に三匹の狐が生まれました。古木の根もとにある巣穴で過ごしていた幼い三匹は、生まれてからというもの、暗闇しか知りませんでした。

ところがある日、大地を通してささやく不思議な唄声が、彼らの心に届いたのです。まだ生まれて間もない幼子にもかかわらず、その唄がもたらす「見知らぬ世界を見たい」という想いに胸を躍らせ、三匹は巣穴を出てゆこうと身をもがき合わせながら、その音の源へと引き寄せられていきました。
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いちばん最初に外へ出たのは、長兄でした。彼が見上げると、雲ひとつない空に昇る太陽が、まばゆいばかりの光を放っています。その瞬間、彼の心には天の輝きに対する驚きと畏敬が満ちあふれました。

続いて外へ踏み出したのは、次兄でした。空はすでに薄闇に包まれ、遠くには刈り終えた稲田が見えています。そこには生と死が隣り合わせであるという悲しみが漂い、彼の魂は静かな憂いに染まりました。

最後に出てきたのは、末の妹でした。夜の帳が下りた世界の中、彼女は桜の枝越しに、月の明かりを受けて散る花びらの影をじっと見つめました。すると不思議にも、幼い心に潜んでいた恐れは薄れ、代わりに穏やかな安らぎが広がっていったのです。
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天の温もり、万物を生かす力、大地の恵み――そのすべてを唄に宿したかのごとき旋律は、三匹の狐に神性の火種をもたらしました。長兄を金色、次兄を白、そして妹を紅の気配が包み、やがて彼らはそれぞれの名を得ます。金のユフ、白のキズアミ、紅のホロメ、と。

<i>- 黄金のユフ -</i>

やがて三きょうだいは人の姿をとり、それぞれの道を歩むようになります。月日が流れ、キズアミは人々の間に溶け込み、ホロメはめったに人前に姿を見せず、静かに世を渡りました。

一方のユフはその特別な黄金の輝きゆえ、人々に深く崇められる存在となります。彼は「霊感を与える神」として知られていましたが、やがて「黄金のユフ」と呼ばれるようになりました。
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しかし安らぎの時代は長くは続きません。生と死は常に互いの影となるがゆえ、戦乱の時代が訪れたのです。柱の神々と混沌の神々が相争う中、キズアミとホロメは、その身に大きな力を持たぬがゆえ、ただ故郷を守りながら文明の滅びをやり過ごし、いつの日か再び訪れる生命の息吹を待とうと考えました。

<i>- ユフの野望 -</i>

ところがユフは混沌の神々の側につき、別の企みを抱いていました。彼は長い年月、人の国を導き、王朝を築く手助けをしてきたものの、結局、人々の中には神々と同じような内輪もめが絶えず起こることにうんざりしていたのです。もし混沌の神々が柱の神々を打ち破れたなら、弱りきった双方を裏切ってイルヴァの地を三きょうだいだけのものにしよう――そう考えたのです。
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ユフは、この世界が繰り返す誕生と滅びの輪廻を断ち切り、一筋に伸びる道へ変えたいと願っていました。そこでは、人々が永遠に繁栄する未来が待っていると信じていたのです。

かつて桜の木陰で寄り添い合った、あの長い昼の季節――三匹がはじめて冬を知らなかった頃のように、また戻れればよいと。

しかしキズアミは思います。「永遠の夏を築いたところで、繁栄そのものがいずれ新たな破滅の種を育むのだ」と。
ホロメもまた、ユフの黄金の野望は目を曇らせ、いずれ求めるはずの真の目的さえ変えてしまうだろうと察しました。

戦乱を避けたい二匹でしたが、兄の暴走を止めるには自らが立ち向かうしかありませんでした。
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<i>- 断絶 -</i>

戦の激化とともに混沌の神々が追い詰められ、ユフももはや身を隠しきれなくなっていきました。そんな中、ユフを追い続けていたキズアミとホロメは、ついに兄を追いつめます。

キズアミはユフと激しくもみ合い、ホロメは刀を振るって深手を負わせます。さらに、それでも倒れぬユフにとどめを刺すべく、兄が持っていた短剣を奪い取り、その身に突き立てました。

暁、黄昏、夜。
天、霊、地。
思考、魂、肉体。
金、白、紅。
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瀕死のユフは、最後の息でキズアミを罵りました。彼は「壊れた世界を愛するなど、くだらぬ情けにすぎぬ」と毒づき、完全なる世界を否定する愚かさを嘆きました。

ホロメには「人間に与えられるはずだった恒久の安寧を踏みにじった」と呪詛を浴びせ、定命の者たちの破滅を願いました。

その呪いはユフの血とともに刀に染みこみ、神性を歪めました。一本の刀は砕けて役立たずとなり、もう一本は人間の命を永遠に欲する恐ろしい刃となったのです。
そしてとうとう、ユフの魂はその肉体から切り離され、引き裂かれてしまいました。
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<i>- 二つの里 -</i>

自らの手で兄を討った事実に耐えきれず、ホロメはユフの亡骸を人里離れた滝のほとりへ運びました。そこで、彼女は生まれたときの記憶――夜の静寂の中、月明かりに照らされる桜の花びらの影を思い起こしたのです。すると彼女の涙が落ちた場所から、神の記憶を宿したかのような聖なる桜の木が芽吹き、しっかりと根を張ってユフの身体を大地に封じました。かくして彼の肉体は二度と魂と結びつくことが叶わぬよう、大樹に押さえつけられたのです。

一方、キズアミは戦場を離れ、さまよい歩いた末に山あいの清流へとたどり着きました。そこには野生の稲が自生しており、彼は死と生が隣り合わせにあった刈り取りの稲田の記憶を重ねます。キズアミはここに住み着き、山の稲を育てて金色の穂を編み上げ、ユフの魂を生と死の境からも逃れられぬ牢へと織り込みました。魂が転生することも、肉体と再び結びつくことも許さぬように。
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やがて、ユフの半身を封じた二つの地には人々が暮らす里が築かれ、それぞれが兄の遺骸と魂を見守る役目を担うようになりました。けれど、命あるものに必ず死が訪れるように、死のあとには生が巡るのがこの世の理。それはただ遅らせられるだけにすぎません。いつの日か、ユフの魂が封印を逃れて生まれ変わるのか、あるいは肉体が地の底からはい出て魂と再び結びつくのか。混沌の神々が再びうごめくという第十一の時代には、いかなる運命が待ち受けているのでしょうか――。
