風の物語,不明,100

昔々、名前のない小さな精霊が、森の中で自由奔放に暮らしていました。彼女は風との間に目に見えない絆を感じていました。風はしばしば彼女の声を運び、森や、森に住む生き物たちに彼女の気持を伝えてくれたのです。どこへ行こうとも、風は決して彼女を見捨てることなく、いつも彼女を包み込むかのように舞い続けるのでした。

しかし、風の弱いある日、彼女は深い孤独を感じてしまいました。彼女は森の端で一人の旅人と出会い、話をしました。旅人に名前を尋ねられた彼女は、「好きなように呼んで」と素っ気なく答えました。旅人は彼女を「アーラ」と呼びました。そして、それが彼女の初めての名前となりました。
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旅人が彼女の名前を口にした瞬間、アーラは風の音が消え、森全体が静まり返るのを感じました。その時から、風は彼女の周りで舞うことをやめてしまいました。

アーラは旅人と旅を共にし、彼の故郷で暮らしました。旅人には大切にされましたが、自由を奪われたような悲しみを、彼女はいつも感じていました。いくら風に語りかけても、もはや返事はなく、アーラは深い失望に襲われました。

そんなある日、彼女は小鳥の巣を見つけました。小鳥の巣では、親鳥を失った雛が、必死に翼を羽ばたかせて飛ぼうとしていました。失敗して地面に落ちる雛鳥を見ながら、アーラは深く思いました。風は自由の象徴であり、同時に命を支えるものでもあったと。
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雛が力尽きようとする寸前、彼女は旅人に与えられた名前を捨て、風に告げました。

「風よ、私の名前を呼べ。ルルウィだ、アーラではない。私をこの名前で知り、共に踊ろう」

すると、彼女の元へ再び風が舞い戻りました。

ルルウィが新たに湧き上がる力を全身で感じ、雛を軽やかに空へ押し上げると、風が歌を奏で始めました。それは、悲しみも喜びも、生も死も全てを包み込むような音色で、ルルウィの自由と、風との新たな絆を讃えるものでした。
